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「……隊長が、いなくなったときの…」
「…ああ、」
この話を出せば、隊長はいつも私に謝ってくる。何年経った今でも、頭を下げてくる。それが嫌で、私は事あるごとにこの話題を、笑い話に変えようとしていた。
「あの時は本当に…」
「今でも笑っちゃいますよ!日番谷冬獅郎を処刑しろ、なーんて言われてたんですもんね、次期総隊長に、って朽木隊長とともに囁かれている隊長が」
そんな私の思いを知っているのか知らないのか、隊長は苦笑しながら訂正する。
「朽木だけだろ、総隊長に、って言われてんのは」
「隊長も言われてますよ」
本当にこの人は、少し客観的に自分を見たほうがいいと思う。強さも、容姿の美しさも、なんにもわかっていない。前までとは違う、熱を帯びた視線を送るようになった女隊士もたくさんいる。私から見て、だけど、あの可愛らしい幼馴染も、隊長を見る目が変わってきたような気がする。そこらへんは、鈍感のようだけど。
「京楽隊長と浮竹隊長は、総隊長になるつもりはないそうですし、若くて強い!超かっこいい瀞霊廷のアイドルと言えば、朽木隊長かうちの隊長ですって」
「余計な単語が多い気がするが」
「気のせいですよー」
「………俺は、」
不意に、隊長が立ち止まる。風に揺れる隊長羽織から微かに見える、強く握られたこぶし。その腕は、震えていて。まるで過去を悔むように思える。隊長は、少しうつむきながら重々しく口を開く。
「俺は…強く、ねぇよ…」
その瞳に映るものは。私には、なんとなくわかる気がする。隊長が、護れなかった人――。
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