歪み

一

｢動機？･･･魔がさしたから･･･ですかね｣

｢魔がさした･･･夫婦仲に問題でも？｣

｢いいえ。私達は、私が言うのも変ですけど、仲の良い夫婦でした。それは、他人が羨む程に。
そして、在り来りな言葉ではありますが、お互いに愛し合っていました。深く｣

｢じゃあ、どうして｣

｢だから･･･｣

｢魔がさした･･･そんな事で愛してる奥さんを殺せるものなんですか！？｣

｢刑事さんは、殺人に明確な動機が必要だとお思いですか？まぁ、確かに、人一人の命を奪うんですから、納得できる様な動機が必要なのかもしれないですが、その動機が例え納得できるような理由であっても、正当な理由にはならない･･･人を殺す事に正当性なんてものがあってはならない筈ですよね･･･ということは、動機なんてものはあっても、無くても余り意味の無い事だと思いませんか？｣

｢動機の有る無しに関わらず、貴方は裁かれるのは変わらないということですか｣

｢そういう事です。私が殺したんですから｣

｢･･･理由も無しに人を殺して、監獄に入れられて･･･後悔は無いのですか？｣

｢特に･･･｣

｢ひょっとして、監獄に入る為に殺害したんですか？｣

｢ﾊﾊｯ、まさか。言ったじゃないですか、魔がさしたと･･･気づいたら歩を刺していたんです｣

｢特に意味も無く｣

｢そうです｣

｢後悔もしていない｣

｢はい｣

｢･･･貴方は、酷い人だ｣

｢だから、捕まるんです。罪を犯せば裁かれる。システムがしっかり機能している･･･素晴らしい事じゃないですか、刑事さん｣

｢まぁ･･･そうですけど｣

｢そうだ、後悔はしていないけれど、心残りはあります｣

｢心残り？｣

｢調べているとは思いますが、私には娘がいます｣