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あたしの、言いたい事。
言いたい事が出てこないかわりに、言いたくない言葉がでてきそうになって、思わず口をつぐむ。
“どうしたんだ”と、優しい顔の父が、あたしの顔を覗き込む。
ダメ、
ダメだよ…
寂しいなんて言っちゃ…
ダメ……。
今言うのは、そんな事じゃない。
あたしは、キュッと下唇を噛んで、顔をあげた。
すると、さっきまで詰まってた言葉が、うそのようにスラッとでてきた。
「お父さんも、お母さんもっ、怪我とか病気とか、気をつけてねッッ…」
今回も、何とか大丈夫だった。
我慢できた。
“寂しい”
なんて気持ちは、あたしの心の中でとめておく。
しまっておく。
それでいいんだ。
その後すぐ、お母さんに抱きしめられて、お父さんの手が覆いかぶさって、頭を撫でられた。
あたしは荷物をまとめるために、自室がある2階へと鞄を持ってあがった。
お父さんと、お母さんが家を出ていく音を背中でききながら、ゆっくりと…
一段、一段…
ゆっくり ゆっくり上がった。
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