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時刻は夕刻…辺りは夕陽に包まれ、すれ違う人々は帰宅の路を歩いているのだろう。マリアもその中の1人であった。
「あれ…マリアさんじゃないですか」
突然呼ばれたことに驚きながら振り返るが、声の主を見つけることはできない。
「ここですよ、ここ!」
よく目を凝らして見ると、麦藁帽子をかぶった男が手を上げている。
「……親方?どうしたの、その麦藁帽子」
「いや~さっき小道具の修理を頼みに出掛けてたんですが、その時にいらなくなったものを頂いたんですよ」
「そうなの…一瞬、誰だかわからなかったけど、とても似合ってるわ」
「ありがとうございます」
少し顔を赤らめて笑う親方にマリアは微笑むと、先程から疑問に思っていたことが頭をよぎる。
「そういえば、昼頃に横浜で支配人を見たんだけど…何か聞いてる?」
「そういえば、今朝は何だか緊張した面持ちで出掛けて行きましたねぇ…何でも、人を迎えに行くとかで」
「……そうなの」
「では、あっしはまだ行かなきゃならないところがあるので、これで…」
そう言って親方は道行く人の中に紛れてしまい、マリアも大帝国劇場へ向かう歩みを早めるのであった。
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