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(―――眩しい)
光に、ゆっくりと瞳を開けた。
どうやら、もうすっかり夜が明けきっているらしい。
いつもは朝陽より先に目覚めるのに。
(疲れてるのかな……?)
昨日が特別、激務だったのかを考えてみる。
何故か、すぐには思い出せなかった。
仕事そのものは、大したことのない、普通の身辺警護の筈だだった、……のだが。
(確か、……華族のオジサンの命を護る、そういう任務だった)
それが、どうしたことか……やたらと倦怠感がある。
特に、腰が酷い。
スーツケースの中に隠れるとか、無理な体勢を長く続けたわけでもないのに。
弛んでるだけかも、とわたしは呟いた。
(もう起きよう)
力強く伸びをしたら―――
ゴン!!
何かを殴ってしまった。
「……痛いよ」
すぐ隣で、声がした。
「……え、誰?」
尋ねれば、
「誰か分かんないの?」
と。
「よりによって今、その台詞はないんじゃない」
恨めしげに。
それにしても、距離が近い。
「……えと、タクミ?」
「当たり♪」
名前を呼ばれたのが嬉しいのか、彼―――龍崎焚誠が笑っていた。
龍崎焚誠。19歳。8月21日生まれ。身長176㎝。体重58㎏。O型。
地の茶髪を、毛先だけ肩に触れる程度に伸ばしてて、年齢の割にはあどけなくて、ちょっとヘタレな……わたしの……同居人、だ。
「それより、どうしたの?きみがそんな風に目覚めるなんて、初めてだと思うよ」
「……え?」
わたしは、彼の言葉に息を呑む。
(どんな風に?)
でも、彼はわたしの変化に気づかない。
「歳さん、って……寝言で誰かを呼んでたみたいだしさ」
(寝言……憶えてない)
夢を見ていたのだろうか。
(大体、『歳さん』って……誰??)
脳みその隅に、こびりついているような……それに、微かに胸がチクチクする。
(その名前)
温かいもので満たされるのに、一瞬で絶望的な冷たさに変わる。
耳の奥で鳴り響くのは、……銃声?
それは、いつのことだろう。
最近ではない。
多分……二百年位、昔だ。
あの人は、凄く強くて、……本当は優しい人だった。
幼いわたしを、本当に愛してくれた。
でも、最期の時わたしは、……泣いていた。
「……泣いてる」
焚誠が、呟く。
(えっ、……今!?)
言われるまで、自分が涙を流していることに、気づかなかった。
それほど、夢の中のわたしと同調していた。
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