第一に お嬢さまと貧乏男

2/21
前へ
/324ページ
次へ
 大荷物を積み込んだ小さな荷車が大通りを通っている。  今の日本ではあまり見られない光景で、さらにはその上に当然のように黒いドレスを着た女が一人座り、荷車はなんと小さな、召し使いの格好をした女の子が引いていた。  威厳の高そうな女は長い金髪を揺らし、女の子は肩にかかる程度の黒髪をしている。 「う~む……しけているな」 女は呟いた。  実際は、町は活気がよくとてもしけているとは言いがたい。しかし彼女にとってはしけているようにしか見えないらしい。  すれ違う人々は、何かの見せ物かと振り返ったり、その場に留まったり、中には追けてくる者もいた。 彼女らは気にせず先を急いだ。 「おお、見えてきたぞ。見えるか?桜」 金髪の女は下の女の子に話し掛けた。 桜は首を小さく縦に振り──はい──と答える。  見えてきたのは資料で見る、約400メートルの小山。その一番上に大きな屋敷がたっていて、妖しい雰囲気が漂っている。  女はその雰囲気が気に入ったようで少しはしゃいで見えた。  っと、彼女は召し使いの横に飛び降りた。長いスカートがふわりと浮かぶ。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加