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「はぁ~……」
ある店の前で一人の見るからに貧乏そうな男が大きなため息をついた。
大都市の路地ではたいして珍しくはない光景であるが、春が終わろうとしているのに黒いコートを着るその男は少し変わっている。
彼は店の看板を見上げた。
『美味い安い、レストゥウラント』店の名前である。男はコートのポケットを探った。
……45円……。
この数値は彼が人生の危機に陥っていることを示していた。
「あと5円あればな~。ゆで卵が買えたのに……」
立ち上がって辺りを見渡す。前方50メートル先に自動販売機が設置してある。
──あと5円あればゆで卵だ。何事も挑戦、通り過ぎざまに10円落とし……──
男はイメージを固め、周りを見渡し誰もいないことを確認した。そしてゆっくりと歩き始める。
────10歩────20歩────自動販売機の前まで来た。ゆっくりとその場に10円を落とす。
チャリーン
「あ、俺の金!」
わざとらしく叫ぶと彼は素早く下を覗き込んだ。
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