たとえばこんなプロローグ

3/17
前へ
/333ページ
次へ
―――――――――――――― 無知を思い知った。 己の過去を恐れ、目の前の現実を恐れ、まだ見ぬ未来を恐れる。 臆病で、しかも足がすくんで、前に進むことなどできなかった。 しかしそれでもずっと殻にとじ込もっていたかった。外の世界なんて見たくなかった。知りたくなかった。 人間なんて大嫌いだ。 それは今でも変わらない。 でも、悪い人間ばかりではないということも知っている。 世界に悪い人間しかいないなら楽だったのに。人間を嫌いなままでいられるから。 それなのに、それなのに、優しい人間に出会ってしまったから。 この荒んだ心に手を差しのべてくれたから。 困ってしまった。 別に人間を嫌いにならなくてもいいんじゃないかと、迷いが生じてしまった。 出会いたくなんてなかった。 これまで生きてきた上での人生観が、ひっくり返されてしまうようで。 自分の中に存在していた世界そのものが、音をたてて崩壊していくようで。 全てが振り出しに戻って、自分の中身が空っぽになってしまうようで。 怖いから。過去が、現在が、未来が、怖いから。 変わることも、変わらないことも、どちらも怖い。 頭が痛くなるような板挟み。ジレンマ。 どうしてこんなことになってしまったのか。どうしてこんなに苦しまなくてはならないのか。 原因なんて、決まってる。 だから、やっぱり、人間なんて……嫌いだ。
/333ページ

最初のコメントを投稿しよう!

883人が本棚に入れています
本棚に追加