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「ああーっ、もうっ!」
ある日曜日の午後、前森 輝樹は悪態をつきながら、前かごにどでかい買い物袋を積んだ自転車をこいでいた。
国道に面した地元の商店街。輝樹はアルバイトの帰りに、そこに立ち寄っていたのだ。
袋の中に入っているのは夕食用に買った魚の切り身、惣菜もののサラダにお菓子のウェハース、そしてアイスクリーム。
ただし季節は夏。学校では夏休み直前の猛暑の時期だ。そんな炎天下ではアイスクリームなど、あっという間に溶けてしまうだろう。
ちなみに輝樹は何も好き好んでアイスを購入したわけではない。そりゃあ、アイスクリームが恋しくなる時期ではあるものの、輝樹としては財布の中身の方が大切だ。
彼は命令……いや、脅迫されたのだ。
あー、最近暑いわねー。こんな日にはアイスよねアイス。ホーゲンダッツの、バニラ味が食べたいわー。もうホント暑くて暑くて……うっかり口滑らして、アンタの噂、あることないこと全部広めちゃうかもしれないわー。
……などと。
普通なら、何を馬鹿な、と笑い飛ばすところかもしれない。
だが、輝樹はこの言葉に逆らえなかったのだ。
なぜなら、その"あることないこと"について、心当たりがあったから。
輝樹はそんな噂が流れてしまったら、自決ものの惨状が待っていることくらい目に見えた。
だから故、もはや彼には、脅迫を聞き入れる以外の選択肢は残されていなかったのだ。
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