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とにかく、状況の確認をしなければ。
砲手であり俺の上官、飯島士長を見たが、彼は突っ立ったまま銃声のした方を眺めているだけだ。
『飯島士長!自分が状況を確認してきます!』
俺の声で我に返った飯島士長が『あ、オゥ…頼むな、渡1士』間の抜けた指示だった。
3番砲の位置まで走ると、迫撃砲の周りに小隊長、加藤3曹、先任士長が集まっていた。その中心に2等陸士の新兵、志田が居た。
迫撃砲を背にした志田は、矢崎士長の後頭部に小銃を突き付け、右手には迫撃砲の榴弾を握っていた。安全ピンが抜かれた状態で、先端を下に向けている。落ちれば、ここにいる全員がミンチになるだろう。
小隊長が落ち着いた声で志田に話し掛けている。
『志田、言いたい事は判った。辛かったんだな…』
『…こいつが…コイツ……こいつ殺してなぁっ!オレも死ぬんだよぉ!』志田は興奮している。目が血走り、顔は真っ青になっていた。
志田2等陸士
体力も標準以下、動作も鈍く、およそ自衛隊向きとは思えない男だった。
だが、典型的な軍事オタクで、銃の分解組み立ては中隊1と思える程速く、迫撃砲の構造、標菅を使う独特の照準方法も、あっという間に覚えてしまった。
なんとなく憎めない奴だったが、矢崎士長はそうではなかった。
俺も新兵の2等陸士の頃は、よく彼に殴られた。
ベッドのシーツが乱れている、アイロンがキチンと掛かっていない
挙げ句の果てには、たるんでるのか?と言ってキ○タ○を蹴り上げられる事もあった。
俺は、中学高校と空手を学んでいたので多少の“鉄拳制裁”はそれほど苦にならなかった。
だが、志田は違った。
彼が初めて体感する『体育会系』世界だったのだろう。
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