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この女は最初の印象のままだった。
口数も少ないし、決して明るい方じゃない。
男と接したこともないのだろう、俺の様子を伺ってばかり。
だからこそ、俺はペースを女に任せた。
どんどん引っ張っていくのも正直面倒だし、コイツにはそれが合ってる気がするから。
そういや名前知らないままだな……。
これから親しくするつもりなら名前を聞いておかないと近付きにくい。
いつまでも『なぁ』とかで済ますわけにはいかないだろうし。
軽く『名前なんだっけ?』って聞いてみるか?
いや、一応美佳が裕也に紹介してる時に俺も近くに居たから印象を悪くしてしまうか……。
そんなことを考えてると「自己紹介がまだでしたね……。私、斎藤空といいます」って向こうから振ってきたし。
あぁ名前って空だったのか、聞いたことあったかも。
さすがに名乗られたのだからこっちも「俺は「光木君、ですよね」」……ってオイ、俺は名前言ってないぞ?
裕也と美佳だって下の要って呼んでるから俺の苗字なんて誰も言ってない、はず。
つい口から「……なんで俺の名前を」って言っちまったけど、あの女、いや斎藤は驚いたかのようにキョトンとして「もしかして覚えてません?」なんて言いだした。
覚えてないも何も初対面じゃねぇか?
俺は会った記憶なんてないぞ。
「……そうですよね」なんて斎藤がボソボソ言うから冗談にも思えないし……。
ま、いいや。
過去に会っていようが関係のない事だ。
俺は俺の目的の為だけにコイツと居るのだから。
まてよ?
『斎藤』と『光木君』だとちょいと距離が遠い、か。
裕也と美佳の間だっていつまでも現状維持が続くわけじゃないだろうしな。
なら、のんびりいく訳にはいかない。
だからなるべく距離感を感じないように「要って呼び捨てでいいよ、斎藤。みんなそう言ってるし」と言っておこう。
気の弱い斎藤が呼び捨てをするとは思えないが、言わないよりいいだろ。
いや、でも断られる可能性も十分ある、か。
そんな事を思う俺を余所に「要、君でもいいかな……?あっ、あと私の事は空、でいいです……」なんて言ってきやがった。
ま、斎藤と俺が呼んでるのに自分を呼び捨てにしろって言った返事としては妥当なところか。
ともあれ、名前で呼ぶところまではクリアっと。
後は適度に気を使いながら時間を潰すかぁ…
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