恩情

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「やつは現れますかね」 モジャモジャ髪の菅野刑事は目的のアパートから、目を離さず呟いた。 「ん、来る。奴は絶対、ここへ来る。内縁の妻、ミサコのもとへ」 無精ヒゲの石狩警部も同じく、アパートから目を離さず答えた。 二人の刑事は張り込みをしていた。 事件は半年前に起こった。 ある借家で殺人事件が起きた。 捜査線上に浮かんだ容疑者は、被害者の同僚の武藤という男だった。 その後の捜査で武藤が犯人と確信し、逮捕状をとった。 そんな時、武藤は行方をくらましてしまった。 それで刑事は、武藤の内縁の妻のアパートに現れると踏んで、張り込みをしてるのである。 その時、アパートからミサコがサンダルで出て来た。 「あ、出て来ましたよ」 「うん、もしや」 二人に緊張が走る。 「警部、奴です」 菅野刑事が指差した。 ボウズ頭の男が立っていた。 武藤だ。 武藤は、ミサコの元へ走って来て、二人は、しっかと抱き合った。 「よし、行くぞ」 二人の刑事は、電信柱の陰から、出て行った。 「スイマセンね」 警部が手帳を呈示する。 「武藤だな」
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