恩情

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彼は覚悟していたのか、慌てず騒がず、ミサコと離れ 「ハイ、武藤です」 と答えた。 「半年前の借家殺人事件の犯人として逮捕するから」 「ハイ、スイマセン。お手数かけます」 武藤は両手を差し出した。 「ここへくれば捕まると、解ってただろうに」 菅野刑事がそう言うと 「でも、捕まる前に、どうしても、ミサコの顔を見ておきたかった」 武藤は下を向き、涙を浮かべた。 その時、菅野刑事が、あることに気付いた。 「彼女、お腹、大きいんじゃないか」 ミサコは無言で頷いた。 「え、そうなのか」 武藤が振り向く。 ミサコは再度頷き 「六ヶ月よ」 「俺の子か?」 「当たり前じゃないの」 「そうか・・・一度、自分の子を抱きしめてやりたかった・・・」 武藤は刑事達の方を向き直り 「それではお願いします」 と言った。 すると、石狩警部は、あごをスリスリしながら考えていたが 「生まれて来る子供を、抱いてやったらいいじゃないか」 と言う。 「え、しかし、どうやって」 戸惑う武藤。 「今日の逮捕は無しだ。一年後、また来る」 「えーっ」
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