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「私の夢は、漫画家になることです」
まだ満開には程遠い、だけどよくよく見れば小さな蕾をつけている桜の木
その木をバックにしながら、彼女は胸を張ってそう言った
なんだろうか、もちろんそれは錯覚なんだろうけど
俺には彼女が木よりも大きく、桜の蕾よりもたくましく見えた
「ずっと…田中君にそれを伝えたかった。田中君のあの言葉のおかげで私、頑張ろうって思えたから。この前生徒会長さんに声をかけたのも、そのためだった…。結局勇気がなくて何も言えなかったけど…」
ああ
なんというか
うれしいな
ガキのころから「ひねくれた子供」だとか「マセ餓鬼」とか言われてきたけど、このときばかりは、ただただ純粋に感動した
「…山下の進路は?」
それとなく聞いてみる
「大阪の…専門学校に行くことになったの。遠いところだから、滅多に帰ってこられないけど…。私なりに考えて選んだ進路だから」
「そっか」
大阪か。遠い…ところなんだな
思ったより…ショックだ
「………」
「………」
二人とも黙り込んでしまう
周りには、たくさんの卒業生がいる。俺たちのことなんか構わずに、抱き合ったり、はしゃいだりしながら卒業の日を満喫しているようだ
でも、さすがにこのときばかりはそんな他の様子なんて1ミリも気にはならなくて
「あのさ…」
俺は沈黙を破る
「はい」
まるで俺が話し始めるのを待っていたかのように、山下ははっきりとそう返事をし、俺の目を見つめていた
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