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立ち上がった彼女の顔は、それは哀感
でも、かすかにその中に、どこか恐怖感が含まれているような、そんな表情に俺には見えた
3人は、その真崎さんの様子にあっけに取られるように、開口していた
言うまでもなく、俺も彼女らと同じ。何も言う事も、何もリアクションをとることも
何もできなかった
「わたし…そんなんじゃないんで…」
顔が伏せられてしまったために、どのような顔をしているのかは判断できないけど
真崎さんは明らかに震えるような声でつぶやいた。泣いているのではないかと思うくらいの震えた声で
そのうちに、周りの客が、こちらに注目しだした
昼休み中のOL、さっきまでぺちゃくちゃ喋っていた奥様連中、わいわい騒いでいた若者連中
ジャンルは違えど、いろいろな人間の視線がこちらに集まっているのを感じた
「ごめん、寺田君、わたし帰る」
「え?」
それは、本当に急だった
急すぎたために、俺の頭は今の状況をつかめずにいた
しかし、真崎さんはかまわずにバッグから財布を取り出して、その中からコーラフロート1杯の値段としては明らかに高すぎるであろう千円札をテーブルの上において
俺たち4人に背を向けて立ち去ろうとした
俺ははっとなる
何がどうなって、彼女がそんな行動を起こしているのかは、まだ整理がつていないからわからないけど
なんにしても、このまま帰すのは、避けたかった
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
だから、彼女の背中を追おうとする
「ついてこないで!!」
しかし、その俺の行動も、彼女のこの一言で完全にさえぎられてしまった
彼女は、その一言を置き去りに再び俺たちに背を向けて歩き始めた
周りの人間は、こそこそと、こちらに聞こえないように話を始める。特に奥様連中の『これだから最近の…』云々の会話がやけに耳についた
だけど、それに優先して、俺は去っていく彼女の背中から目を離せずにいた
ざわざわした喫茶店の中、彼女が去ったときに開閉した自動ドアの無機質な音が、なぜだかはっきり聞こえていた
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