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どうにも気乗りしないのは、今日から新学期が始まるということだけが原因じゃないことは火を見るよりも明らかである
校舎内の、この学校自慢のソメイヨシノは満開に咲いているというのに、俺の心はそれとは対照的だった
「はぁ…」
ため息は幸せが逃げる
なるほど、昔の人は良いことを言ったものだ
確かに、ひとつついただけで、余計に気がめいってしまう
「やぁ、どこかで見た顔と思ったら寺田君じゃありませんか?」
新3年生の教室がある教室棟の前の掲示板に張り出されている、新クラスのメンバーが書かれている模造紙に目を通しているときだった
そんな、どこか理知的な雰囲気を感じさせる声色と口調で後ろから話しかけられたのは
そこに立っていたのは、その知的な外観と、黒縁めがねが見事にマッチしている一人の男
「お前…誰だっけ?」
「お約束のボケはいりませんよ。大体それが以前まで好きだった女の子の兄に対する態度ですか?」
ちっ。相変わらず冗談の通じないやつだ
と、心の中で思いながらも、俺は彼に向き合った
修司だ。近衛修司。元…いや、現役生徒会長の
本来、進学校であるわが校の生徒会長は、2年生までで任期を終了することが決まりとなっている
…いや、決まりというのは語弊があるかもしれない。そういう風習なのだ
ほとんどの生徒は大学に進学するため、受験勉強が本格化する3年生になってまで生徒会長を続けることはしないということだ
だから、こいつもなかなかに酔狂な男なのだ。まぁ嫌いではないけど
「あれ?寺田君もC組ですか?同じクラスですね」
修司は、向き合った俺の背中越しに掲示板に目をやるとそんなことを言う
俺たちと同じように掲示板に目を向けていた数人の生徒が、一瞬こちらに視線を送ったような気がした
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