9人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は碓井 桂吾(ウスイ ケイゴ)。彼女居ない歴二十三年の二十三歳です」
「寂しいね」
「うるせぇ。所詮良い人止まりなんだよ、俺は」
口を尖らせたながら桂吾は気に食わなそうに言った。
告白した女性からはいつもそう言われ、振られていたのだ。
「それより、お前も早く言えよ」
「ん? あぁ、そうだったね」
黒ネコは思い出したように言った。
「十三歳のメスです」
「うん」
「以上です」
「名前は?」
「忘れました」
「はぁ?」
桂吾は眉間にシワを寄せ、黒ネコの方を向いて言った。
「いやいや、年齢覚えといて名前忘れる訳ないでしょ」
「忘れたくて忘れたんじゃないもん」
「それにしても、十三って結構行ってるな」
「何がです?」
「ネコで十三歳は長生きだろ。違うのか?」
「違いますよ」
「違うのか」
「それは死んだ時の歳ですから」
──刹那。
一人と一匹の間に風が吹く。桂吾にとっては瞬間的な時間が何秒もたった様に感じた。
最初のコメントを投稿しよう!