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「はい、ちょっと待って下さい……」
重たくなった腰を持ち上げて、扉をゆっくり開ける。
そこには、寝癖のついた茶色い長髪と、今にも閉じそうな目をした女性が出迎えた。
「……うるさいです……」
絞りだしたような声で、その女性はそう訴えた。
現在時刻は午前一時を指していた。
「す、すいません……。色々ありまして……」
「んー……以後気を付けて下さい……」
それだけ言うと、女性はゆっくりと帰っていった。
俺は囁くような声で力強く「おやすみなさい」と言い、ドアを閉めた。
彼女の名前は、村井 友里(ムライ ユリ)さん。二十六歳。
俺がこのアパートに引っ越して来た時に隣に住んでいて、色々とお世話になっている。こんなお姉さんがいたらと、何度思った事か。
(……俺も寝なくちゃ……)
俺は汗のかいた顔と首をぬるくした水道水で簡単に洗い、布団に潜り込んだ。
いきなり走ったためふくらはぎを少々痛めたが、直ぐに寝る事が出来た。
寝るまでの間は黒ネコの事ばかり考えていて、嫌な事を思いながら寝ない日は久しぶりだった。
しかし、黒ネコの事は夢だったと願いながら眠った。
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