花屋の息子リコ

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気持ちのよい潮の香りが風乗ってレンガ道の街を通り抜ける。 風の妖精の通り道、そう人々は呼び、そこをフェアリーストリートと名付けた。 その先突き当たりには、ベンチオ=レンチーニの経営する小さな花屋がある。レンチーニの花屋だ。そこは小さいながらもこの町の人々に、香りと癒やしをもたらしていた。 海からの風が入り込み、店先の花を揺らす。店番を任されているベンチオの息子が揺れる花に微笑みかけた。 「こんにちは風さん。あまり僕の花たちを驚かさないでくれよ」 「リコ」太った少年がやってきて話しかけてきた。 「やあ、テッシオ」 「今日も学校行かないのかい?」 「うん、ごめん。店番しなきゃいけないんだ」 「そうか」 テッシオと呼ばれた少年は落胆してそう呟いた。 「またオーエンやデリに嫌がらせを受けたのかい?」 「うん。あいつら、爺さんが元マフィアだったからって、先生も何もしてくれないんだ」 リコは少し考えた。 「分かった。明日、父さんに言って休ませてもらうからさ。一緒にオーエンとデリのとこへ行って話しをつけようよ」 「でも」 「大丈夫さ」 テッシオの顔に笑顔が戻った。 「ありがとうリコ。じゃあ、明日。学校、早く来れるといいね」 「うん。じゃあ明日」 リコはテッシオが見えなくなるまで店先で手を振った。 「学校か……」 リコが店内に戻ってしばらくすると、背広姿の男が暑そうに手で仰ぎながら軒下の日陰に入ってきた。 「暑いな。こうも暑いと背広なんてものを発明した奴を恨みたくなるぜ」 「いらっしゃい」 リコは笑顔で客を迎えた。 「人間なんて腰巻きだけで充分だと思わないか? その方が女相手にも色々と手間が省けるしな」 男はニヤリと笑い、リコの方へ向いた。 「坊主、ベンチオはいるか?」 「いえ、父はドン・カルボナーラの元へ出かけています」 ここ最近、毎日ドン・カルボナーラの元へ向かっている。リコは父の様子に不安を感じていた。 「そうか」男はそう言って店内を見回した。 「坊主一人で店番か?」 「はい」 「大変だな」 「いいえ、花は好きですし、それに、僕の育てた花は綺麗な花を咲かせて長持ちすると評判なんです」 「そうか」男はそう言って近くにあった花を掴み、鼻に近づけ匂いを嗅いだ。
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