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―紫乃 紫―
『バタバタバタバタバタバタッ…ブシュゥッ』
芋虫のような形をした肌色の指が大量に崩れ落ちて床に溜まっていく。
一本の指が三等分くらいに切り刻まれてるみたい。
ちょっと確認しづらいけど、靴の中の激痛とじわじわと赤色に染まる靴が足の指の切断を知らせてくれた。
「―〰ッ!!!!!!」
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
≪痛い!≫≪痛い!≫≪痛い!≫
体中が快感で満たされる。
存在しないはずの指先が捩曲がるように痛い。
血でぼとぼとになっている靴下は少しだけ不快だけど、私のこの『快楽(イタミ)』を妨げるほどではなかった。
溢れ出る血。
その鮮血に埋もれてく骨。
見事に切断された断面からは、何かで斬られたというより、もとから〝それ〟がなかったのではないかと錯覚させられる。
「フッ…」
自然と笑いが込み上げてきてしまった。
座らないで立ち上がっていれば もっと飛び散る血を眺められたのにと今少し後悔している。
ま、感じる快楽に変わりはないけど。
佐藤君が見下すように私を見てるよ。
変態だね。
私のほうがずっとずっとずっと変態だけど。
全身に感じるこの痛み。
耐え難くて、いっそ死んでしまった方がましと思ってしまうこの痛み。
この不確かなモノが私が生きる世界はここなんだと告げてる。
傷つけば傷つくほど、
苦しめば苦しむほど、
死ねば死ぬほど大きくなる〝快楽〟。
ああ…
な ん て 素 敵 な 世 界 な ん だ ろ う 。
「フフフ…ッ」
この程度の出血じゃ死なないだろうなあ。
てことは、もうすぐ神様からメールが…
『ブゥゥゥッ ブゥゥゥッ』
≪来た≫
紫は床に開いたままの携帯へ指のない手を伸ばす。
「!」
え?
「これじゃ…」
紫は慌てて吹雪を見上げた。
紫の目には、這いつくばる彼女を見下して微笑する〝狂人〟の姿が映る。
≪携帯が持てない!!!≫
悲痛の声を上げる紫を前に彼はただ静寂を貫くだけだった。
吹雪の冷血な目はどこか紫を挑発しているようにすら見えた。
「くッそぉおおおッッ!!!!『ガリッ』」
低い、声が響いた。
紫は、床を這ったまま地面に並べられた鉛筆の先をかみ砕く。
そして、その先端を携帯のエンタキーに押し当てた。
『バリバリッッ』
鉛筆と奥歯が砕けた音がした。
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