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あの世とはこんなモノなのか、といった表情を浮かべ、吹雪は再び辺りを見渡す。 確かに飛び降りた。 それなのに今は傷も痛みもない。 自殺した という唯一の証拠は黒い血に塗れたこのカッターシャツを残すのみ。 「……ッ」 不適な笑み、と言うよりは不気味な。 世の全てを掌握したような表情。 瞳孔が開ききった瞳、無理矢理な笑顔を造る口元は裂けるほどに引き攣っていた。 状況は全く理解出来ないが〝新たな世界〟に吹雪は高揚していた。 全てが未知の世界。 彼の全てをもってしても、この状況を理解するのは困難だった。 ただ、これが日常でなく非日常である事は、彼でなくとも容易に想像出来るだろう。 飛び降りて死んだ筈なのに、死んでいない非現実。 呼吸も脈拍も正常。 興奮状態にあったため、脈拍は少し高かったが別段気にする程の事ではなかった。 何もかもが異常なこの空間。 彼がもし〝普通の人間〟であったなら、この状況に絶望し、己の過ちを悔いていたことだろう。 しかし、既に絶望の淵にいた吹雪の目には、この〝不自然に明るい匣の中〟が文字通り輝いて見えた。
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