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「終わった」
――なにか根拠があった訳じゃない。
――ただ、そんな気がした。
目を開くとそこは白い空間。
白い壁。
白い床。
白い天井。
彼の視界に入るのは、無駄に広い純白の世界だけだった。
自分の呼吸音だけが静寂の中聞こえている。
すっかり見慣れた大きな白い匣の中、吹雪は幾度となく見上げたこの〝異様に高い天井〟を一心に見つめ、震えた声で小さく呟いた。
「終わった…のか?」
白い空間が織り成す妙な静寂だけが、この問い掛けに沈黙という形で答えた。
誰かの答えを待つ余裕もなく放たれたその〝精一杯の言葉〟を言い終え、彼は静かに一筋の涙を流した。
瞳から零れた滴は優しく白い頬を伝い、平坦な純白の地面に音も立てず落ちる。
『アア、終ワッタ。
貴様ガ最後ノ1人ダ』
突拍子に響く高い声。
人間味のない、というよりは人工的な造られた声といった印象だろうか。
吹雪が振り返ると、人の形をした〝なにか〟が白い床の上に直立していた。
その〝なにか〟はこの白い世界に溶け込むほど真っ白な、世の〝抽象〟を全て閉じ込めたような外見をしていた。
「お前は……誰だ?」
答えは解っていた。
彼はただ、それを全力で否定したかった。
思ったままの答えが返って来ることが、何より怖かったのだった。
返答が来るまでの数秒間、吹雪は答えを聞くか耳を潰すかという異常な葛藤を繰り返した。
『【神】』
全身から、ざわっと血の気が引く。
吹雪は額の冷たい汗と、溢れた涙を袖で拭い、神と名乗る相手を傍観した。
「そうか……。お前が……ッ」
激しい怒りが込み上げ、彼は緊張が解けて脱力していた拳をもう一度固く握った。
〝今すぐに殺したい〟
吹雪は砕けるほど奥歯を噛み締め、辛うじてそれを抑える。
そして、見付けられないでいた言葉をようやく見つけ出し、それを肺に溜まった重苦しい空気と共に吐き出した。
「説明してくれ」
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