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今年に入って3度目の自殺。
前回も前々回も死に臆し、途中で踏みとどまった訳じゃない。
単なる〝リストカット〟や〝首吊り〟では、彼を殺すことができなかった。
しかし、今日は今までとは違う。
地上50mから落下すれば、誰であろうと痛みなく逝くことができるだろう。
ヒュオオオオと、強いビル風が彼を包む漆黒の帳を吹き抜け、ボタンが一つだけ開けられたカッターシャツの襟が揺れる。
吹雪は溜息を静かな夜の空気に吐き出す。
彼にとって高校生活は本当にくだらないモノであった。
〝競争〟する相手がいない人生ほど退屈な事はなかったからだ。
彼が人生の終焉を飾る〝白装束〟に選んだのは、白いカッターシャツに黒色で無地のズボン。
それは皮肉にも彼が馬鹿にした高校の夏服。
無造作に、無意識に選んだ訳ではない。
この〝くだらない世界〟に、ほんの少しだけ差し込んだ希望。
それが高校生活だった。
結果的にそれは虚しさを増幅させるだけであったが、ありふれた流行りの服装よりは最後を飾るに相応しい―
そう考えたのだった。
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