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「さぁ、逝くとしようか」
夏の夜にも関わらず、冷めきった彼の心を映したように 新月の夜は暗く、冷たい。
強い風が吹いた。
と、同時に吹雪の体が夢幻の闇に放り出される。
吹雪は宙を舞い、一瞬背中に翼が在るかのような開放感を覚える。
そしてすぐに現実に引き戻され、地上50mからの垂直落下が襲う。
悲鳴は なかった。
が、50mという 死ぬまでに残された時間。
その〝時〟は彼の人生の中で最も長く、最も短かった。
≪俺は死ぬのか?≫
彼の瞳には、蛍の光のような ぼんやりとした輝きを放つ夜の街の照明が映った。
40m……
激しい風が彼の黒髪を逆立て、【死】へのカウントダウンを刻み始める。
30m……
ここから先は、おそらく彼が衝突するであろう硬く冷たいコンクリートの地面だけがその虚ろな瞳に映っていた。
吹雪の体が地に墜ちた時、彼の命もまた、血飛沫と共に堕ちるのだろう。
20m……15m…10…9…8…7…6…5……
高層ビルの窓ガラスに冷たい、霞んだ目をした〝自分〟が映る。
あぁ、やっと…
解 放 さ れ る 。
4
:
:
3
≪ああ………≫
:
2
≪そうか……≫
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1
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:
≪思い出した≫
:
:
『ぐしゃッッッッ』
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