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「はっ……はぁっ、はっ」
暗がりでよく見えないが私を襲った男は40代くらいの大柄の男だった。頭が軽く禿げていてその中途半端さが余計に気持ち悪い。あんな奴の手に口を押さえられていたと思うと吐き気さえする。
「まあいいや」
男は拳を握らず両手を胸の前で構えると股を少し開いた。
「柔道か」
ジャージの人影がポツリと言う。
「構えだけでよく解ったな。コレでも有段者だ。逃げないなら手加減しねぇ」
「黒帯持ってる奴が一般人殴ったら銃刀法違反でパクられるだろ?」
「バレればな」
「……」
バレればな。その言葉の意味は直ぐに解った。コイツは殺すつもりだ。私も、あの人も。
気持ち悪い程の静寂。私達のいるこの空間の空気が重く、地面に沈みんだように息苦しくなる。
最初に動いたのはジャージの人影だった。一度息を吐き、締め切っていたジャージの前を半分開ける。
「テメェ……舐めてんのか?」
「別に。早く掴みにこい」
掴む。そうだ。ジャージを前開きにしたら掴みやすくなる。掴まれれば最後。投げに入るか寝技に持ち込まれる。
一瞬、彼がミスを犯したのかと思った。しかし公園の電灯がかろうじて照らした口元を見てハッとする。
これは罠だ。
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