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痴漢の額から汗が流れた。奴にも見えたのかさっきまでの勢いが衰えている。
タラタラタラタラ流れる汗。
ジワッ。
流れた汗が左目に染みる。本能的に目をつぶる痴漢。それと同時かあるいはそれより早く、人影が痴漢との間合いを一気に詰めた。
「くっそ!」
頭を守るように死角になった左側にガードを固める。風を切り裂き凄まじい速度で痴漢に迫る拳。しかし。
「っ──」
パァアァアアンッ!!
拳が直撃したのはガードの開いた右側頭部だった。
痴漢が短い悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転げ飛ぶ。
ドロッとしたミートソースのようなどす黒い血、黄ばんだ歯が何本か折れ宙を舞う。
「ぁ、がぁ、ぁあぁ!」
顎が砕け、だらしなく舌が垂れた痴漢が言葉にならない悲鳴を発する。
っ、強い……
「どうだ? 人殺しと呼ばれた俺のフックは?」
人殺し?
混乱した頭で幸の話を思い出す。まさか……この人が?
人影がゆっくりと私に近付いてくる。やがて暗くて見えなかったその素顔を私の目はシッカリ認識した。
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