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ギラギラした切れ長の目。無表情な口元。少し伸びた真っ黒なざんばら髪。背は高いがまだ若く、同い年と言われても納得できる。
「大丈夫……か?」
口下手なのか彼は目を合わさず言う。
「は、はい。ありがとうございます」
「そっか……とりあえず救急車呼ぶからとっとと帰った方がいい。何かと面倒だ」
「え、でも」
「このまま放置する訳にもいかねぇ。それに仕掛けてきたのはコイツだ。サツにたれ込めはしねぇさ」
そう言うと青年は痴漢を一瞥した後、公衆電話のある近くのコンビニに向かって歩き出した。
「ま、待って!」
大きく広い背中に声を投げる。青年は振り向かず足を止めたまま返事をした。
「なんだ?」
「な、何かお礼……」
「いらん」
即答。
「なら、名前だけでも」
「……」
青年は少し迷ってから呟いた。
その罪深き名を。
「……ぁらまき」
「ぇ?」
「荒巻恭二」
それがその男の
黒く気高い男の名だった。
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