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「はっ……はっ」
暗い夜道を息を切らして駆けていく。10月の冷たい夜風に身を晒し、ランニングのペースを少し上げた。
何してんだろうな俺は。なんで力加減も出来なかったんだ。……いや、アレは仕方がない。俺も、アイツも全力だった。ただ、最初の1Rで決まっていれば。あんな事にはならなかった筈だ。
悔やんでも悔やみ切れない暗い過去。奴の頭に入れた拳の感触が1ヶ月たった今も忘れらんない。どんな理屈をこねても周りの目は変わりはしないだろう。仲の良かった友達も教師も陰では人殺しと呼んでいる。俺は……いったいどうすればいいんだ?
ピタリ。足が自然に止まる。気がつけば俺は知らない住宅街の中に一人居た。辺りを見回しても誰も居らず、ただ暖かな家々の灯りが灯っていただけだった。
「はっ……はっ……くくくく」
暗闇の中に笑い声が吸い込まれて消えて行く。可笑しくてたまらない。可笑しくて可笑しくて笑えてくる。まさに俺にピッタリだ。暗闇に一人。行き先も解らずに、ただボクシングという灯りを物欲しそうに眺めている。笑いはやがて消え、俺の心に夜風が吹き込む。
「……くそ」
アスファルト舗装を踏み鳴らし、全速力で駆け抜けた。目的地も知らず、帰り道すら忘れ、ただ駆けた。
そうしなければ自分の中の何かが終わってしまう。自分の何か言葉で言い表せない何かが完全に冷めてしまう気がした。
冷たい夜風が吹いている。
ふと夜空を見上げると、澄んだ闇に星星が美しく煌めいていた。
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