1人が本棚に入れています
本棚に追加
夕闇に染まる空が沈んでいく。それを見ながら家路につく。都会でも田舎でもない街を歩く。そして僕は考える、生きる意味や理由、なぜ彼等は生きたのか、死んだのか。考えたって仕方がないと分かっている。それでも考えてしまう。苦笑を漏らしながらも存在しない人々の想いを空想する。感傷に過ぎない、自分に対しての。同じ場所にいないのだから伝えられることなどない虚しさでしかない。宛名のない手紙を出すのと一緒だ。それでも止まない空想に更にのめり込む。
ふと、車道越しに視界の端を黒い何かが通り過ぎた。何気なくそちらを見る。そこには夏の終わりに相応しくない黒いコートの人物が歩いていた。その背中に妙な既視感を抱く。長い黒髪、鋭い眼光、人を寄せ付けない空気。僕は彼に会ったことはないが知ってる、そう思ってしまった。矛盾を反芻する。何故?その言葉が頭の中で繰り返される。気付けば立ち止まり見つめていた。ふと、その人物もこちらの視線に気付いたのかこちらに振り返る。
目が合った。瞬間、時間が止まる。そんな感覚に囚われていたと後になって思う時間だった。
どこか疲れたような哀しい目だと思った。表情も変えぬまま始めから興味が無くなったように歩き去ってしまった。何か声を掛けなければと思いつつ、言葉は形に成らず喉が詰まる。
最初のコメントを投稿しよう!