第零章[始まりは突然に]

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しばらく歩くと木々の隙間から、月明かりに照らされる青い地が見えた。 いや、それは地ではない。探し求めた物だ。 それはぱっと見て、湖のように大きく、せせらぎと言うには少しばかり広大だ。 光輝くそれは、すごく綺麗で…飛び込む事も躊躇わない程。 透き通る水が遠目からわかり、その青き水はグラデーションのように光を浴び色合いを変える。 そして その川の向こう岸…俺とは正反対にはその川よりも綺麗な女性の姿。 白く長い髪が腰の辺りまで伸び、華奢な手足は透き通るようでとても…綺麗だ。小さな身体に似つかない気品のような物を俺は確かに肌で感じていた。この距離ですら、俺にそう感じさせる程の美が確かにそこにあった。 水浴びでもしているのだろう。こちらには背しか向けていないのだが、裸だというのがわかる。 目の前であれを拝めば、俺はどうかしてしまうかも知れない。 「綺麗…だ」 いつの間にか、彼女に近付いていく身体とそれを凌駕する程のびっくり発言をする口。それを制御出来ないのは最早、男という愚かな生き物の性だろう。 理性も何もない。ただ、その人の姿に魅とれていたかったのだと思う。 気付けば足は水に浸かり、彼女の動きに合わせ動く波紋まで見える程の距離に立っていた。 彼女が数回水を宙に投げるそぶりを見せた。それを見た俺が我に帰るのに時間は必要なかった。焦りに急かされ、水を蹴り上げると激しい音をかき散らす。 「誰?」
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