第零章[始まりは突然に]

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そんな黒い思想を毎日俺はアルバイトの帰り道で無意味に巡らせる。 この思考が急に頭を過ぎるのは、俺が意味や価値という存在がまず許せないからだとは思う。否定的だとかそんな問題じゃなく、本当に大嫌いなんだ。 すれ違う人々が皆自分の意味を求め価値を探しているのかと思うと、どうしようもなく嘲笑いたくなるくらいに。 笑わせるなと。お前達にも俺にも、意味なんてないんだと。 お前達が行ってきた全てが……その全ての行動も何もかも、無意味で無価値なんだ。 けして俺の意見を押し付けたい訳じゃない。ただそれが真実なのだと俺は信じて止まないから、どうしても認められないんだ。 考えてもみて欲しい。俺達が働くのは何故だ? 飯を食う為。ならば何故飯を食う? 生きる為。 じゃあ、何故生きる? ほら、結局そういう事なんだ。全ての物に意味があると人は言うけれど、最終的に辿り着くのは漠然とした疑問で、その答えは無意味で無価値の一択。 当たり前のように行ってきた事の全てが、当たり前になってしまった無意味と無価値の塊。 皆はそれを知らぬ振りでいるだけ。 俺はただ、冬の風に当てられながら暗いアスファルトの道を蹴り進んだ。 ちらほら見える街灯は古く、夜道を照らすどころかそれが街灯なのかと疑う程にか弱い光だ。 月が雲に隠れては現れ、無意味にそれを繰り返す。 乾燥した空気が肺一杯に広がり、そして出ていく。 何も変わらない。何も無い。無価値な日々のほんの一ページ。
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