第零章[始まりは突然に]

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おにぎりの封も切らず、ただそっと握りしめる。 温かさが手の平に広がっていく。それが、やけに切なかった。 最近、遊ぶという行為をしていない。雑談や気晴らしなんかも。 まぁ、友人のいない俺に取って複数でしか出来ない雑談なんて選択肢の一つにもならないが。 だからこの温かさに、人の温もりを感じているのかも知れない。 人を無意味で無価値と罵せるのに、人に温もりを求めている。 どうしようもなく滑稽な俺を誰かが笑う事もない。もしかしたらそこにある矛盾が、こんな寂れた思考しか出来ない俺を人間として留めているのかも知れないな。 しばらく俺は小さくブランコを揺らしながらおにぎりが冷めるまで、優しく握りしめていた。 こんなにも俺は弱い人間だ。 だからこそ、自分に向けられる意味や価値という存在が怖いのかも知れない。
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