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長老から呼ばれた日からちょうど7日目、ジンナは再び長老の元へ赴く事になった。
今日はリウと近くの丘まで行って、そこで昼食をとる予定だったので、急な呼び出しにジンナはいささか不機嫌な面持ちで、長老と対面した。
「すまんの、また出向いてもらって。」
「いえ、用件は何ですか?」
「まあまあ、そんな恐い顔をせんと。」
ジンナは目の前に置かれた薬味の入った湯を一気に飲み干した。
「実はちょいと仕事を頼まれて欲しいんじゃ。何、たいした仕事じゃない。隣街までゲルンと一緒に品物を届けて欲しいんじゃ。」
「なぜ私と?」
「ま、そう思うじゃろうな。実はその隣街というのが、帝国領の街なのじゃ。」
「帝国領!?」
「そうじゃ、そこに実はわしらの仲間が潜んでおる。その者達と定期的に連絡を取り合っておっての、いつもこちらからは怪しまれぬように、夫婦を装った使者を遣わせているんじゃ。じゃが、今回ゲルンと一緒に行く筈だった女が流行りの病を患っての、申し訳ないのじゃが、お主に願いでたわけじゃよ。」
「でも、私は帝国から逃げてきた身。そんな無謀なことは。」
「大丈夫じゃ、そもそも顔はそんなに見られてないんじゃろ?それにとっておきの変装の道具があるんじゃ。」
すると、ゴッジと呼ばれていた男が手のひら程の小さな壺を持ってきた。
「これは摩訶不思議な薬でな、この薬を髪に塗ると髪の色が変わるんじゃよ。」
ジンナは盗賊時代に一度この薬の事を噂で聞いた事があった。
なにやら遥か西に存在する大陸に住む、高貴な身分の女性はその薬を己の髪に塗り、変化した色を楽しむという。
塗る量で変化する色が変わると聞いたが、まさか素性を隠すために使われるとは夢にも思わなかった。
しかし、今後の為にも一度髪の色を変えるなどして、別人となり、新しい人生を送るのも悪くない。
むしろ、それでリウと暮らすのが少しでも永くなるのなら、願ったり叶ったりではないか。
仕事を自分に頼んでくるということは、この村にとって自分は必要であるという事で、それはこの村にしばらく居ていいという意味でもある。
ジンナは壺を手に取り蓋を開けた。
ジンナとゲルンは森の中にいる。
1日と半日程で戻れるという事だったので、ジンナはゲルンにリウへ言付けを頼み、ゲルンが一度自宅へ戻っている間に、髪の色を変えた。
「どう?髪の色」
「輝く赤毛はまるで異国の女のようだ。」
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