【第1章 女盗賊ジンナ】

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たいした危険もなく、ジンナとゲルンは帝国領内の街についた。 さすがに街だけあって、ロドルの村とは規模が違った。 人の数はもちろんの事、店の数が尋常じゃない。 帰りにいくつかの店に寄ってリウのお土産を買えるなと、ジンナはこの仕事をして良かったと初めて思った。 「あまりキョロキョロしないでくれ。巡回兵に怪しまれる。」 ゲルンが耳元で囁いてきたので、ジンナは首をすくめて、目線だけ動かし街を物色した。 しばらくして急にゲルンが立ち止まったので、ジンナは危うくゲルンの背中に顔をぶつける所だった。 ジンナが文句を言おうとするとゲルンが前方を指差し「ここだ。」と言った ジンナはその建物を見上げる。 そこは2階建ての若干小さめの雑貨屋だった。 ゲルンは店の扉を開け中に入って行き、ジンナはその後に続いた。 「いらっしゃいませ。」 「この帽子を合わせてみたいんだが、鏡はあるかね?」 ゲルンは店頭に並べてある帽子の中からひとつを手に取ると、中年の男の店員にそう尋ねた。 すると店員はジンナを一瞬見てから「ありますよ。奥の部屋へどうぞ」と2人を案内した。 奥の部屋は意外に広く、ジンナは少し驚いた。 しばらくすると、先ほどの店員とは違う、初老の男性が現れた。 「お久しぶりです。カーノ殿。」 「ゲルンか。半年振りくらいになるか。リウは元気か?」 「おかげさまで風邪ひとつひかず、村の男の子より元気です。」 「そうか、それは良い事だ。ところで隣の女性は?見かけん顔だが。」 カーノと呼ばれた初老の男は目を細めてジンナを見た。 「この者は名をジンナと申す旅人です。」 「ほう」 カーノは頷くと、それ以上の事は聞かず、ゲルンと話始めた。 「ゲルンよ、いよいよ帝国が動き出すぞ。」 「なんですと!?いつです!?」 いつも冷静なゲルンが声を荒げるのを見て、ジンナは驚き一歩後ろに下がった。 「まあ、落ち着けゲルン。まだ今日明日の事ではない。ただ近い内ではあるがな。」 「いよいよ帝国が動くか…」 ゲルンは今すぐにでも店を飛び出して村へ戻るような雰囲気を醸し出していた。 と、その時、部屋の扉が勢いよく開いた。 「大変だ!帝国が動いた!」 さっきの店員が青ざめた顔で部屋に入るなり大声でそう叫んだ。 「そんなバカな!」 カーノが叫んだ時にはすでにゲルンは部屋を飛び出していた。image=352050666.jpg
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