【第1章 女盗賊ジンナ】

10/96
前へ
/99ページ
次へ
ジンナはゲルンの後ろを必死についていった。 元盗賊という事もあり、走る事に自信を持っていたジンナだったが、ゲルンとの距離は僅かづつではあるが、開きはじめていた。 ジンナは悔しさと苦しさで胸が破裂しそうだったが、それ以上に早くリウと会いたくて、気力でなんとかペースを維持していた。 そんな中、いきなり目の前に走っていたゲルンが消えたかに見えた。 ジンナは慌てて足を止め、近くの木の横に隠れる。 盗賊の時のクセだ。 何か異変を感じたら、まず姿をどこかに隠す。 この事は生きる確率を上げる為に絶対に必要な事だった。 ジンナは呼吸を整えてから、そっと周辺を確認した。 すると、子供の背丈くらいの草が密集している場所にゲルンが体を滑り込ませているのを見つけた。 なぜ隠れようとしているのか? その理由はすぐにわかった。 帝国の兵士の姿が見えたからだ。 ジンナは素早く相手の数を確かめる。 1人、2人…いや、3人か… 数から察するに偵察隊であろう。 近くに本隊がいるはずだ。 ジンナはどうすればいいかゲルンの方を見る。 ゲルンは短刀を取り出し、ジンナと短刀とを交互に指で指し示した。 ジンナは武器を持っていないと首を振ると、ゲルンは自分の足元にその短刀を置くと、懐から別の短刀を取り出し、ジンナに軽く頷くと、音をたてずに帝国兵士の方へと近いていった。 戦うつもりだ。 ジンナは盗賊団にいた頃の感覚が、徐々に体中に広がっていくのを感じた。 そして同時に鼻の奥に血の香りが蘇ってくる。 ジンナは帝国兵士3人が自分の方を見ていない隙をついて、さっきまでゲルンが潜んでいた茂みに素早く移動した。 そしてゲルンが置いてくれた短刀を掴み、鞘から短刀を抜き取り息を潜めて身構える。 汗が頬をつたう。 足音が徐々に近づいてくる。 兵士が自分の場所まであと数歩の所で突然悲鳴が森に響いた。 ジンナは意を決して兵士の前に飛び出すと、一番後ろを歩いていた兵士が喉から血を噴き出しながら倒れていくのが見えた。 前を歩いていた2人の兵士は喉を切られた兵士の方を見ていたので、ジンナが飛び出した時には反応が一瞬遅れた。 その一瞬をジンナは見逃さず、目の前の兵士の脇横に短刀を突き立てた。 兵士は「グッ!」と唸ると、その場に崩れ落ちた。 最後の1人が剣を抜いてジンナに斬りかかってくる。 しかしジンナはそのままの体勢で、相手の攻撃を防ぐ事をしなかった。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加