【第1章 女盗賊ジンナ】

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自分に斬りかかってきた兵士がゆっくりと横に倒れた。 ジンナは一呼吸つくと、さっき放り投げた短刀の鞘を取りに戻る。 「なぜ相手の攻撃をかわそうとしなかった?」 背後でゲルンがそう問いかけてくる。 「だってあんたの姿が視界に入ったから。できるだけ敵を引きつけていた方があんたも仕留めやすいでしょ?」 「その考え方は危険だ。」 ゲルンは自分の短刀を懐に入れると踵を返し、ロドル村の方へ駆けて行った。 慌ててジンナもそれに続く。 「ねえ!もう一本の短刀忘れてるよ!」 ジンナはゲルンの背後から叫ぶ。 「お主の護身用にやる!さっきの太刀捌き見事だった!」 ジンナは走りながら短刀を懐にしまう。 「急ぐぞ!わしの推測だと帝国の奴らは我々の村を攻め落とし、そこを拠点にするだろう!」 「村の人達は!?」 「基本的に戦闘員や諜報員だからな!たぶん討たれるだろう!」 「リウも!?」 ゲルンは無言のまま走る。 「リウにもしもの事があったら絶対に帝国の奴らを許さない…」 ジンナは心の中で激しく誓うと、走る速度を速めた。 日が暮れ始めた頃、ジンナの前を走っていたゲルンの足が急に遅くなった。 「どうかした?」 「見ろ、馬車が通った跡だ。」 「戦をするんだから食料を運ぶために馬車くらい使うんじゃないの?」 ゲルンは完全に走るのを止め、下を向きながら歩いている。 「その通りだ。だが、これはその逆で馬車の台数が少なすぎる。」 「それがどうかしたの?」 ジンナはゲルンの隣を歩きながら聞いた。 「奴らめ…!食料を全て村の物で賄うつもりだ!」 「どういう事?」 「これで村の者達は人質にならない。食いぶちを減らす為に確実に殺されるだろう。」 ジンナは恐怖と怒りで寒気を感じた。 「絶対にそんな事させない!!」 ジンナは走りだそうとした瞬間、ゲルンに肩を掴まれた。 「あれを見ろ!」 ジンナはゲルンに言われた方角の空を見上げた。 「すでに遅かったか…!」 ゲルンの言葉はほとんど耳に入らす、ジンナは空を呆然と見上げていた。 そこには一本の黒々しい煙が立ち上っていた。 「ジンナ!いくぞ!」 ジンナは虚ろな目でゲルンを見た。 「まだ村の者達がやられたと決まったわけじゃない!いくぞ!」 ジンナはゆっくりとではあったが前へ前へと進みだした。 「ジンナ!走れ!!」
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