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ジンナはつい数日前にリウと外で昼食を食べる約束をしていた。
村の全貌を見渡せる丘の上でと。
そして今、ジンナはその丘の上にいる。隣にはリウではなく、リウの父親であるゲルンとだが。
「間に合わなかったか…」
ゲルンがそう呟く。
「…アイツら…帝国のヤツら…全員殺してやる…!!」
ジンナは懐から短刀を取り出し、鞘を投げ捨てると一気に丘を駆け降りた。
「待て!ジンナ!」
ゲルンはすぐにジンナを追う。
「ジンナ!まだ村人が全員やられたと決まったわけじゃない!落ち着け!ジンナ!落ち着け!」
しかしジンナは全く速度を落とさず駆け降りていく。
ゲルンは全力でジンナを追い、あと数歩という所で背中に飛びついた。
ジンナは短刀を持ったまま暴れる。
ゲルンは短刀をまず引き剥がし、暴れるジンナを強く抱き締めた。
「離せ!アイツらを殺す!」
「落ち着けジンナ!まず生存者を探そう!村の連中はれっきとした工作員だ。そんじょそこらの村人とは違う。傷の手当ても自分で出来る。きっと近くに生き残りがいるはずだ。」
暴れていたジンナはやがて静かになった。
「実は万が一の時の為に秘密の隠れ家が ある。村の被害を遠目からだが、確認してから、その場所に向かおう。」
ゲルンはそう言うと、短刀を拾いジンナに渡した。
村の至る所に帝国兵士がはびこる中、ジンナとゲルンは出来るだけ村に接近し、被害状況を確認した。
家は思ったよりは焼けているものは少なく、半数以上は焼かれずにいた。
村人の遺体はそれ程見なかったが、どこかの場所に埋めたか、あるいは人質としてまだ、どこかに幽閉されているかもしれないので、2人は良い期待を持たなかった。
ジンナは必死にリウの姿を探したが、見つける事はできなかった。
「そろそろ隠れ家に行くとしよう。」
ゲルンはそう言うと静かに村を離れた。
ジンナはリウの姿を確認するまで粘りたかったが、徐々に村を前線基地にしようとする帝国の動きが活発化してきたので、やむなくゲルンの後を追って行った。
完全に日が暮れ、夜に活動し始める動物達の鳴き声が、森のあちこちから聞こえ始めた頃に“隠れ家”に到着した。
ゲルンは帝国兵士の尾行がないのを確かめると、ツタに覆われた岩の一角を探り始めた。
「ここだ。一緒に着いてこい。」
ゲルンはジンナにそう言うと、大人がやっと入れそうな岩の切れ目に入って行った。
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