序章

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ジンナの体力はとうに限界に達していた。 だが、走るのをやめるわけにはいかない。 まだ後方から追っ手の殺気が消えてはいからだ。 だいぶ人数は減ってはきたが、まだ4~50人はいるだろう。 それ程まで貴重な物とは知らずに、今更ながら盗みを働いた事を後悔する。 しかし、例え盗んだ物を彼等に返したところで命を助けてもらえる可能性はないだろう。 だったら生き延びる為に自分の足で命を手繰り寄せるしかない。 思えば子供の時から走りっぱなしの人生だったなと、こんな切羽詰まった状況下なのに、昔を思い出し、ジンナは吹き出しそうになった。 村で一番、整った顔立ちだったジンナは、子供の頃から男達の注目の的だった。 最初はチヤホヤされているようで楽しんでいたが、やがて男達の目的が自分の体だと知った時、子供ながらにショックで激しく嘔吐した。 それからは、男達に声をかけられただけで全力で走って逃げるようになった。 やがて『子供』と言われなくなった年頃になった時、女達だけで組織している盗賊団に入り、毎日奪っては逃げるという生活を始める。 そしてジンナが18歳になったとき、初めて恋に落ちた。 いつものように小さな村を襲い、逃げる時だった。 目の前にひとりの男が立ちはだかったのだ。 ジンナは短剣を握り締め身構えると、男は首を横に振り、ジンナの腕を掴み引き寄せ、背中の傷を手当てし始めたのだ。 ジンナは自分が怪我を負っていた事にも驚いたが、それ以上に体を男に触れさせている事にもっと驚いた。 それから恋に気付くまで時間はさほどかからなかった。 ジンナは夜中になると、盗賊団のアジトを抜け出し、男の元へと走った。 やがて、恋が愛へと変わり、ジンナは男と暮らす為、盗賊団から抜ける事を決意。 そこから男との逃亡生活が始まった。 男は限りない優しさでジンナを包んでくれ、毎日生き延びていくのは熾烈を極めたが、とても幸せだった。 だが、そんな幸せは僅か半年で失う事となる。 男が病であっけなくこの世を去ったのだ。 だが、悲しむ余裕もなくジンナの逃亡生活は続いたのである。 生きる為に盗みを繰り返したのだが、今回は運が悪かった。 盗みの瞬間を目撃され、相当身分が高い人間だったらしく、100を超える兵士に追われる身になった。 そしてついに木の根に足をとられ転倒。 薄れゆく意識の中、一頭の馬が近づいてくるのを感じながら気を失った。
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