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ジンナはとっさに押さえつけていた子供を抱き上げ、部屋の隅へと素早く移動し、室内に入ってきた男と対峙した。
男は慌てる様子はなく、ゆっくりとした動作で部屋に入ってくると、床に座り穏やかな表情で話かけてきた。
「どうやら気がついたようだな。まあ、落ち着いて話でもしようじゃないか。」
ジンナは子供の首に腕を絡めたまま、じっと相手を見る。
「我々は君の敵ではない。少なくとも現段階では。だから、まずはお互い何者なのか、その子が作った鍋でもつつきながら話そうではないか。ちなみに、君の傷を手当てしたのも、その子だ。」
ジンナは慎重に自分の腕や足を見ると、所々に布が巻かれている。
それを見て初めて、自分が追っ手から逃げている際に多くの傷を負っていたのを知った。
それと同時に傷が痛みだす。
「まだ激しく動かない方がいい。それよりそろそろ、その子を離してはくれぬか。君の締め方ではせっかくの人質が、価値のない死体に変わってしまうぞ。」
ジンナはハッとして子供の顔を見ると、すでに目が閉じ肌は青白く変化していた。
ジンナは慌てて腕をほどくと一転、今度は子供の介護を始めた。
「大丈夫!?声は聞こえる?お願い!目を覚まして!」
「大丈夫。気を失っているだけだ。最ももう少しで命が危険に晒されていたのも事実だがな。少し寝かせておけば、すぐに目を覚ますだろう。」
男はそう言いながら子供を抱きかかえると、先程までジンナが寝ていた場所に寝かせた。
「腹が減っているだろう。メシにしようか。この子が作った鍋はなかなか美味いんだ。」
部屋中に鍋料理の美味しそうな匂いが立ち込めていた。
男に何度も食べるよう勧められたが、ジンナは最後までリウという名の女の子が 目覚めるまで、料理に口をつけなかった。
リウが目覚めた時、ジンナは反射的にリウを抱きしめた。
リウは一瞬、体を強ばらせたが、それがさっきの苦しいものではないとわかると、そのままジンナの体に自分を預けた。
「ごめんね、私を助けてくれたのに酷いことをして。」
リウはジンナの顔を見つめ、怖い表情ではないと確認すると笑顔を返した。
ジンナはよりいっそうリウを強く抱きしめ、もう一度「ごめんね」と呟いた。
「さ、2人共、メシにしよう。と言っても、俺はもう満腹だがな。」
ジンナとリウはお互い顔を見合わせ、笑った。
ジンナにとってそれは久々の笑顔だった。
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