【第1章 女盗賊ジンナ】

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リウの鍋料理は温かく、そしておいしかった。 これまでの逃亡生活を思い出し、最初の一口を食べた時、思わず涙ぐんでしまったが、2人にバレないよう涙を拭った。 食事が終わり、ジンナとリウは一緒に食器を洗った。 綺麗になった食器を一枚一枚笑顔で見せてくるリウをジンナは愛おしく感じた。 こういうのが本当の幸せなのかと実感し、自分の今までの人生を悔いる。 「ジンナさん、ちょっとこっちに来てくれないか。」 リウの父親・ゲルンが自分を呼んでいる。 ジンナはリウの頭を撫でてから、ゲルンの元に行った。 「すまんな。とりあえず、そこに座ってくれ。」 ジンナはゲルンに言われた通り、木で張られた床に座る。 「ジンナさん、あなたを追っていたのはゼン帝国の奴らだろう?なぜ奴らに追われるハメになったのだ?」 ジンナは台所で一生懸命食器を洗っているリウを一度見た後、嘘などつかず、全てをありのままに話そうと決心し応えた。 「盗みをしたんです。」 「盗みか。いったいどんな相手から盗みを行ったんだ?」 「さあ、名前や顔はわからないけど、かなり大きな屋敷の持ち主には違いないわね。」 「そんな大きな屋敷だと、さぞかし警備も厳重だったろ?よく忍び込めたな。」 食器洗いを終えたリウがジンナの隣にちょこんと座った。 ジンナはリウの頭を撫でリウの笑顔を見てから、意を決してゲルンの問いに答えた。 「私、元盗賊だったんです。だから、屋敷に侵入するのはそんなに難しい事じゃない。ただ、やはり勘というか技というか、盗賊団にいた時みたいにはいかなくて、部屋で物色している時に警備中の兵士に見つかって、逃げる羽目になったの。でも、まさか100人以上に追いかけられるとは思わなかった。」 「なるほど、で、何か盗んだのか?」 ジンナは慎重に胸元を探り、手の中にすっぽりと入るくらいのバッチのような物を取り出した。 「慌ててたんで、こんな物しか盗めなかったの。これの為に危うく命を落としそこねるなんて、今までで最悪の盗品。」 ゲルンはじっとその盗品を見つめ、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。 「ジンナさん、これからこの村の長老に会ってもらえないか?とても大切な話がある。そして、その盗品だが、最悪なんてとんでもない。むしろ最高の盗品だ。正直驚いた。それは国を動かす程の代物になる。」 ジンナは手の中にある盗品を、初めて手にした物のように見つめた。
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