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リウも付いて来ると聞かなかったが、父親のゲルンは娘を戒め、リウは留守を任される事になった。
すっかり暗くなった村の道をジンナはゲルンと歩いている。
ジンナはまだ、ゲルンを完全には信頼していない。
だが、少なくとも自分の命を救ってくれた恩人である事は事実だ。
多少はゲルンの願いも聞かないわけにはいかない。
ジンナは村の様子を注意深く観察しながら歩いていたが、特に怪しい感じはなかった。
村から少し離れた丘の上に、長老が住むという小屋があった。
建物自体はそれ程、大きい物ではなかったが、頑丈そうな造りだ。
ゲルンが扉をノックすると、ちょうどゲルンと同じ歳くらいの40代と思われる男が出てきた。
「まだ、長老は起きておいでか。」
「ああ」
40代の男がそう言った時だった。
小屋の中から怒鳴り声が響いた。
「何をしてる!早く入ってこんか!ワシがいくら歳だといっても、まだこんな時間には眠りに就かんぞ!」
ゲルンと男は顔を見合わせ苦笑いをしたあと、ジンナを連れて建物の中に入った。
中は思っていたよりも広く、たくさんの書物がまず一番最初に視界に写る。
その書物が並んでいる棚の奥にランプが置かれていて、その下にひとりの老人が座っていた。
おそらく彼が長老なのだろう。
シワの具合からいって、80歳は超えているだろうか。
それにしても、入り口での会話をこの距離で認識できるとはただ者ではないと、ジンナは密かにガードを固めた。
「ゲルン、この、おなごが?」
「ジンナと言います。ゲルンさんには命を救って頂き感謝してます。」
ジンナは自ら名を名乗った。
早く話を終わらして、リウの小さな頭を撫でながら、たくさん話をしたい。
「ホッホッ、なかなか元気なお嬢ちゃんじゃの。歳はいくつじゃ?」
「20」
「そうか、そうか。
ゴッジ、この娘に何か飲み物を。で、帝国の奴らに追われていたと聞いたが、そのワケは?」
ジンナはその問いに答えようとしたところをゲルンが制止し、ゲルンの口からジンナが追われていた理由が語られた。
その中には、ジンナの知らない言葉もあった。
ちょうど、温かい飲み物を飲み終えた時だった。
「ジンナさん、最初に言うが、実はこの村は、対ゼン帝国への砦なんじゃ。村人は子供以外は男も女も皆兵士。だからジンナさん、あんたはある意味、一番安全な場所に匿われたというワケじゃよ。」
長老は笑顔でそう言った。
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