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ジンナはじっと長老の話に耳を傾けていた。
「つまりじゃ、この『レップ王国』はもともと『ゼン帝国』の一領地に過ぎなかった。ゼン帝国が民に対する政策は熾烈極まるもので、何万、何十万の民が飢え命を失っていったんじゃ。そんな民の苦しみを見かねた、この地の地方領主であり、ゼン帝国第6軍団長のレップ将軍が帝国に対し謀反を起こしたのじゃ。その時は帝国から無数の討伐隊が派遣されてな、それは激しい戦闘になったんじゃよ。ここいら一帯も火の海と化していた…」
長老は懐かしむように虚空を見つめ、しばしの沈黙が流れた。
「やがて、その熾烈な戦も終わりを告げたんじゃ。ゼン帝国の宿敵『ドリドア共和国』が好機とばかりにゼン帝国の首都を狙ったのじゃ。その時の奴らの慌てようは見ものだった。」
そう言うと長老は「ホッホッホッ」と乾いた声で笑った。
「長老はその戦いの数少ない生き残りだ。」
ゲルンが小さな声でジンナに教えた。
「それからは、この国は独立に向けレップ将軍を筆頭に、全国民が一丸となって国力の回復に努め、今ではゼン帝国はおろか、他の列強国とも肩を並べられるまでになったんじゃ。」
そこまで話すと長老は渇いた喉を潤すために温かい飲み物を口に流し込み、うまそうに喉を鳴らした。
「この国の歴史はわかりました。私が盗みを行った国や、この国にいれば、ひとまず安全だということも、何となくだけどわかったような気がする。でも、それを聞かされて私はなんて答えればいいのか、何をすればいいのか全くわからない。」
長老はジンナの言葉を目を瞑りながら聞いていた。
そして目を開け、ゲルンに何か呟くと、ゲルンはジンナの方を向き話しかけてきた。
「ジンナさん、例の盗品を見せてくれぬか。」
ジンナは胸元から盗品を取り出し、長老の前に差し出す。
長老はそっと盗品を手に取ると、ゆっくりと時間をかけて見つめた。
「ジンナさん、こいつをわしらに譲ってくれんかの。もちろん、タダとは言わん。ゴッジ!」
ゴッジという名の男は、部屋の奥にある坪の中から小さな袋を取り出してきて、ジンナに渡してきた。
ジンナは袋を開け中身を確かめると、銀貨がびっしりと詰まっていた。
この量だと、贅沢をしても1年以上は暮らせる。
ジンナは驚いて長老を見た。
「なに、口止め料も込みの報酬じゃて。」
ジンナの手には今まで味わった事のない重みを感じていた。
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