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俺は汗を拭い一息つくと、いつものように禁煙パイポをくわえる。
これで仕込みは出来た。
店を開けるまでまだ一時間ある。
とりあえず一服だ。
自分の店を持って十年、思えば結構長いこと人の飯を作ってきたわけだが。
店を閉めようと思ったことは一度もない。
俺には他に何も出来ないからだ。
俺から『飯を作る』と言う行為を取り除いたら、骨と皮さえ残らないだろう。
昔付き合っていた女に、別れ際に言われた言葉。
『あなたって本当に馬鹿な人』
笑みを交えて言われたあの言葉は、なんと俺を的確に表現しているものなのか、とつくづく思ったものだ。
飯を作るしか能のない男は、女性一人幸せに出来ない。
無力な男だ。
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