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朝紀はそれから笹に短冊を結びつけに行ってしまった。
ーーまったく……あいつは心臓に悪い。
笹に短冊を結びつけながら呟く。気づいて貰えますように、だなんて何故書いてしまったのか。……きっと来年には違う学校に進むからそれでなのかもしれない。今までは傍にいたから、まだ安心していられた。あいつのことだから、男と付き合うなんてないだろうけど、万が一そんなことがあったらなんて考えると……胸の奥がきゅーっと苦しくなる。
早く気持ちを伝えればいいのかもしれないけれど、そんなことしたら距離をおかれるに決まっている。
今一番怖いのは、お前が逃げてしまうこと。
気持ちを伝えてしまって距離が離れてしまうなら、このままでいい。だからこの願い事はほんの戯れ言。
一年に一度しか逢えなくても気持ちは繋がっているのに、ほぼ一年顔を合わせていても気づかれない気持ちもあるんだぜ。
ーーま、俺が頑なに隠してるのもあるんだけど。
別に叶えなくてもいいぜ、彦星と織り姫様。せいぜい幸せにしてろよ。
そう思いながら短冊から手を離すと、悠も結びつけにきていた。結びおえるとこちらの目線に気づき、目があった。
「叶うといいな、願い事」
そう言って笑うと家族がいる方に戻っていってしまった。何を書いたのか気になって、ちらっと見た短冊には
ー来年も一緒にいられますように。ー
誰となんて書いてないから、逆に誰とでも考えられる。
…俺と、だったらいいなぁ、なんて考えるくらいいいだろう。
空を見上げ一つだけ願った。
(せめて、)
(あいつの笑顔を近くで見れる位置にいれますように)
(恋人までは望まないから)
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→Nextあとがき
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