願ったものは、たった一つだけ

9/11

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
  朝紀はそれから笹に短冊を結びつけに行ってしまった。 ーーまったく……あいつは心臓に悪い。 笹に短冊を結びつけながら呟く。気づいて貰えますように、だなんて何故書いてしまったのか。……きっと来年には違う学校に進むからそれでなのかもしれない。今までは傍にいたから、まだ安心していられた。あいつのことだから、男と付き合うなんてないだろうけど、万が一そんなことがあったらなんて考えると……胸の奥がきゅーっと苦しくなる。 早く気持ちを伝えればいいのかもしれないけれど、そんなことしたら距離をおかれるに決まっている。 今一番怖いのは、お前が逃げてしまうこと。 気持ちを伝えてしまって距離が離れてしまうなら、このままでいい。だからこの願い事はほんの戯れ言。 一年に一度しか逢えなくても気持ちは繋がっているのに、ほぼ一年顔を合わせていても気づかれない気持ちもあるんだぜ。 ーーま、俺が頑なに隠してるのもあるんだけど。 別に叶えなくてもいいぜ、彦星と織り姫様。せいぜい幸せにしてろよ。 そう思いながら短冊から手を離すと、悠も結びつけにきていた。結びおえるとこちらの目線に気づき、目があった。 「叶うといいな、願い事」 そう言って笑うと家族がいる方に戻っていってしまった。何を書いたのか気になって、ちらっと見た短冊には ー来年も一緒にいられますように。ー 誰となんて書いてないから、逆に誰とでも考えられる。 …俺と、だったらいいなぁ、なんて考えるくらいいいだろう。 空を見上げ一つだけ願った。 (せめて、) (あいつの笑顔を近くで見れる位置にいれますように) (恋人までは望まないから) . →Nextあとがき
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加