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「そうだ、今日悠ちゃんを家に呼びなさいよ」
いつもと変わらない朝食の風景。……母さんがそう発するまでは。
「何でさ」
「だって今日七夕じゃない。昔は毎年一緒に過ごしてたじゃないの」
にこにこと笑う母さん。思いつきの多い母さんだが、まさか悠がでてくるとは。
「おぉ、悠ちゃんくるのか。それは俺も早く帰らないとな」
「悠姉ちゃん来るのー!やった、短冊書こう短冊っ!」
「おぉ、悠ちゃんくるのかい。じゃぁ、じいちゃんがお菓子買っておこうかね」
「今日の夕食、母さん張り切っちゃうわよ~」
皆が好き勝手言いまくる。待ってくれ、ひとつ確認したい。
俺はまだ悠に確認していないし、悠も来るとはいっていない。
なぜそんなに盛り上がっている。これは連れてこれなかったら、俺が責められるんじゃないか?非常に理不尽だがそれが現状なので仕方ない。
それに俺だって来てほしいにきまっている。
ー悠を家に誘う。…ミッション、だなこれは。
誘う、と決めたのに今日に限って機会がない。休み時間だって話そうとすれば、狙ってるとしか思えないタイミングで邪魔がはいる。やっと、悠を捕まえられたのが帰路についた時だった。
「よぉ」
並んで歩き出したけれど、違う話題ばかり話してしまいなかなか本題に入れない。
もうすぐ分かれ道。言わないと今日1日家族に責められる。
「あのさーー」
やっと口にだせた。
「母さんはあんな調子だし、有紀も喜ぶから来てやってほしいんだけど」
一番喜ぶの俺ですけど。
「ん~、いいよ」
その言葉を聞いた瞬間、身体の奥がふっと軽くなった。続いてきゅーっと中心から広がっていく嬉しさ。たった三文字がこんな力を持ってるなんて知らなかった。
またなーと走り去っていった。……ミッション終了。しかし終了と同時に次のミッションが……。
ー嬉しさのあまり変な行動をしないこと。あくまで自然に、だ。
(弛むな、頬)(君の前では平然としていろ)
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