この想いに名をつけるなら

2/7

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
  耳の奥が痛くなりそうなほどの静寂。小さく、本当に小さく名前を呼ばれた。 「どうされました…ご主人?」 本当は聞かなくても分かっている。分かっているけれど、あなたの口から私の予想が外れてることを聞きたかった。 「すまないね、こんな夜更けに……君に会っておきたかったんだ」 「いえ、大丈夫ですよ。私は貴方に仕える身ですもの」 軽く口角をあげるだけの笑み。それ以上動かしたら耐えられなくなってしまう気がしたから。 ぽつりぽつりと貴方は静かに語り出した。 「…月日が、……時が過ぎるのは早いものだね。出会った時は僕も君と同じくらいだったのに、今じゃこんな老いぼれだ。君はちっとも変わっていないのにな」 くつくつと喉の奥で笑う。すっかり痩せて、かさかさと音をたてそうな肌。 「色々なことがあったねぇ……」 ただ一言呟いた。 えぇ、知っています。お側におりましたから。とても穏やかに笑う人を奥方に迎え、子を成された。その子も成長し孫も生まれた。貴方の思い描いているその中には、私のことも含まれているのだろうか。 .
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加