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耳の奥が痛くなりそうなほどの静寂。小さく、本当に小さく名前を呼ばれた。
「どうされました…ご主人?」
本当は聞かなくても分かっている。分かっているけれど、あなたの口から私の予想が外れてることを聞きたかった。
「すまないね、こんな夜更けに……君に会っておきたかったんだ」
「いえ、大丈夫ですよ。私は貴方に仕える身ですもの」
軽く口角をあげるだけの笑み。それ以上動かしたら耐えられなくなってしまう気がしたから。
ぽつりぽつりと貴方は静かに語り出した。
「…月日が、……時が過ぎるのは早いものだね。出会った時は僕も君と同じくらいだったのに、今じゃこんな老いぼれだ。君はちっとも変わっていないのにな」
くつくつと喉の奥で笑う。すっかり痩せて、かさかさと音をたてそうな肌。
「色々なことがあったねぇ……」
ただ一言呟いた。
えぇ、知っています。お側におりましたから。とても穏やかに笑う人を奥方に迎え、子を成された。その子も成長し孫も生まれた。貴方の思い描いているその中には、私のことも含まれているのだろうか。
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