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目を覚ますと目の前いっぱいに薄紅色が広がった。
「……桜、か」
はらり、と花弁が散る。しかし綺麗だなと思うよりも、胸の上にある見慣れた頭の方に意識が向いた。それは間違いなく幼なじみの頭であって、そして間違いなく朝紀の胸の上で寝息をたてている。
ーー無事、だったみたいだな。
いきなり暗闇に吸い込まれてしまったから無我夢中で彼女を守ろうとした。見たところ怪我もしていないようだ。ほっと安堵の息をつく。
ひらりと悠の髪の上に桜の花弁が落ちた。それを取ろうと手を伸ばす。花弁を取った後、躊躇うように手が動いたがそっと手を悠の頭に置いた。小さなそれから、さらりと肩へ流れる髪に移っていく。すーっと毛先まで滑らせると、また頭へと戻った。
掌から伝わる温もり。自分たち以外の時間は進んでいないと思えるくらい、ゆったりとした時。
ーーあ、やばいかも。
なんか俺……泣きそう。
こうして触れている温もりは確かであって、けれどそれは刹那のもの。彼女が目覚めた瞬間に終わる。今の時間が嬉しいのに、その短さに悲しくなる。二つの感情が合わさって涙腺を刺激しようとする。
ーーお願いします。
誰にでもなく請う。
今だけでいいから。少しだけでいいから。
……抱きしめさせて下さい。
起こさないように、そっと抱きしめる。刹那の温もりを壊さないように。
ーーあぁ、心臓がうるさい。
(好き、)
(などと言葉じゃなくても)
(この鼓動でバレてしまいそう)
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→Nextあとがき
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