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「けれど、君と過ごすようになってから……誰かと接するのも悪くないって思えるようになったんだ。それにこの力だって、君を見ることができるなら、むしろ愛おしい」
ありがとう、と穏やかな声で貴方は笑った。胸が締め付けられるようなそれは、私の一番好きな顔。
「…私もご主人に出会えてよかったですよ」
普通に過ごしていれば交わることはなかった双方の道。それを、貴方の道を歩めたこと、私の道に貴方がいたことーー本当に嬉しかった。
「それはよかったな。僕は君を困らせてばかりいたから」
「ふふっ、それでも私の主がご主人でよかったと思ってます」
小さく笑いあった。こんな穏やかな時間を貴方と過ごすのは、どれくらいぶりだろうか。ーー願わくばこの暖かな時間が少しでも長く続きますように。
「……藤、後のことは頼んだよ。君がいてくれるから僕は安心して逝くことができる」
そう言ってにっこりと笑った貴方。その瞳は悲しい程澄み切っていた。……それは終わりが近いという知らせなのだろうか。
ーーさぁ笑って、私。
涙ではなく笑顔で貴方を見送りたい。最期ならば涙の私ではなくて笑顔の私を、貴方の網膜に焼き付けてほしい。
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