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「任せて下さい、ご主人」
私はきちんと笑えているだろうか。本当は泣き出してしまいたい。泣いて貴方にすがってしまえれば、どんなにいいだろう。
「ねぇ…藤。
最後だけでも名前で呼んでくれないかな」
ーーあぁ、なんて酷い人。
こらえていた涙がじわりと滲んだ。やがてそれは溢れて頬を伝い落ちる。一度堰を切れば止まらない。
次々と流れ行く涙をそっと貴方が拭いとる。泣かないで、だなんてどこまで優しくて…どこまで酷いのか。耐えきれなくなってその手を強く握った。
「ごしゅっ…………蒼夜、様っ」
ーー酷い人酷い人酷い人。
泣きたくなかったのに
笑っていたかったのに
そんな事、最後の最後で言うなんてずるい。
「酷い人っ、泣きたくなかったのにっ!……最後なら笑った顔を貴方に覚えていてほしかったのに…」
酷い人。……優しくて優しくて酷い人。
今の貴方は何を言っても優しく微笑むだけ。お願いだから、いつものように困った顔で笑って下さい。それから「ごめんね」って呟いて頭を撫でて下さい。ーーお願いだから、逝かないで下さい。
どんなに願ったって叶わないことは分かってる。でも願うことくらい許してほしい。
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