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握った手から伝わる鼓動。それが少しずつ弱くなっていく。貴方の中から貴方が消えていくような、そんな気持ちになった。
ーーあぁ、終わりはもうすぐそこに来てしまったのか。
「………蒼夜様、ずっと…ずっと、お慕い申し上げておりました。っ……貴方が、好きですっ…大好きです」
本当は言わないと決めていた気持ち。けれど消えゆく貴方を前にしたら言葉が溢れていた。
ー優しく、素直な貴方に惹かれたのです。
好きです。もう一度呟けば、貴方ほんの少しだけ微笑んだような気がした。……私の言葉、貴方に届きましたか?
徐々に薄れていく貴方の輪郭。やがて握っていた手の感触がなくなった。残ったのはたった今、貴方が横たわっていた布団だけ。
万物は山に還り、山から生まれる。だから貴方も山へと戻ったのでしょう。
「今夜だけは………泣いてもいいですよね?」
明日からはまた笑えますから。貴方に託されたこの家は、私が守りますから。
巡り続ける時空の中でまた巡り会えたなら、次こそははっきりと伝えさせて下さい。
(貴方のことが)(大好きです、と)
その想いは、恋と呼んでも愛と呼んでもしっくりこなくて
この想いに名前をつけるなら、きっとそれはーー
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